大黒屋HDが新計画発表!ECプラットフォームと中国消費者金融を獲る!?
2018年7月に発表された大黒屋HDの「IT新会社事業計画」と「中国・陸秦科技と業務提携」のニュースから、大黒屋HDの大展望が見えてきたのでここにまとめたいと思います。
この2つの計画は、大黒屋HD(ホールディングス)がブランド買取業界で最大手になるということと新事業へのチャレンジを意味しています。
それでは、大黒屋HDの2つの計画を検証してみましょう。
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大黒屋HDとは?
『オレンジの大黒屋との違い』
まず、「ブランド買取&質」の業界には2つの大黒屋があることを理解してもらわなければなりません。
そして、この2つの大黒屋は、資本提携など一切なく、同名でありながらも全く別の会社なのです。
大黒屋HDとは、わかりやすく言うと「質大黒屋」のこと。
全国に20店舗展開していて、全国展開の質屋の先駆者と言ってよいかもしれません。
(以下、「黄色の大黒屋」と呼びます)
そしてもう一方、打ち出の小槌のマークの大黒屋は、「チケット大黒屋」と呼ばれたりします。
全国に200店舗以上あり、FC展開にも積極的です。
(以下、「オレンジの大黒屋」と呼びます)
そんな、業界に全く同名の会社が2つあるややこしい状態になっているのですが、今回話題に上げた大黒屋HDは、黄色の大黒屋のことです。
大黒屋HDの現状
大黒屋HDは東証2部上場企業です。
主なグループ会社に全国20店舗の「黄色の大黒屋」、イギリスナンバー2で116店舗の質店「SPEEDLOAN FINANCE(スピードローンファイナンス)」があります。
現状の財務状況はこんな感じです。
(Ulletより)
この2年、成長が止まっていますね。
この間、ブランド買取業界ではネットでの売上比率が上がり、店舗での売上が下がるという減少が起こっています。
そして、CtoC(ネット上での個人間取引仲介)業界ではフリマアプリ「メルカリ」が台頭し、3,000億円以上の市場を作り出しました。
リユース業界全般のこういった流れの中で、大黒屋HDは何か変化を求められ、変化を求めていた状態だったと考えられます。
大黒屋HDの「IT新会社事業計画」を徹底分析
(http://tyn-imarket.com/pdf/2018/7/2/140120180702475766.pdfより)
大黒屋HDの新会社「ラックスワイズ」改め「ベータワイズ」とはどんな会社でしょうか?
新会社「ベータワイズ」とは、大黒屋HDが過去にやっていた委託販売もできる中古ブランド品のECサイト「The SIFQUE (シフク)」の運営会社「ラックスワイズ」が社名変更したものです。
ITの開発を大黒屋HDが自グループで、本腰を入れて取り組むようになったと考えればわかりやすいかと思います。
CEOは自身もエンジニアであり、豊富なプロダクト経験を持つYoela Palkin氏が就任。
「偽物を掴まされたくない」「物を売ってもいい」「すぐにお金が必要」という顧客ニーズをIT事業から解決していく方針です。
この計画書の見るべき点は3つ
・CtoCマーケットに参入
・ECプラットフォーム事業
・AI真贋鑑定
早速ひとつずつ検証していきたいと思います。
今CtoCマーケットに参入。大丈夫か!?
国内ではメルカリが台頭してくるまでは、ほぼヤフオク一択だったCtoCマーケットですが、フリマアプリの中で頭2つほど抜けたメルカリが東証マザーズで上場しましたね。
メルカリは世界でもシェアを拡大中で、アメリカで3000万ダウンロードを超え、イギリスでも「2017年ベストアプリの最もダウンロードされたアプリ」のひとつに選ばれています。
(イギリスでの実ダウンロード数は不明ですが、推定1000万未満)
ブランド業界のCtoCマーケットではその他に、国内ブランドリユース業界の第一位企業「コメ兵」が運営する「KANTE(カンテ)」があります。
「KANTE(カンテ)」に関する数値の情報は調べても出てきませんでしたが、体感的にはあまり好調とは言えないと思われます。
実際、ブランド買取業界で「KANTE(カンテ)」を意識しているという話を聞いたことがありません。
アパレル業界の雄「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」も2015年12月にフリマアプリをスタートしましたが、わずか1年半でサービスを終了しました。
その他にもLINEのフリマアプリ「LINE MALL」も2016年の5月で早々にサービスを終了。
CtoCマーケットのプラットフォーマー合戦はメルカリの一人勝ちで既に勝負あった感がありますが、大黒屋HDに勝機はあるのでしょうか?
ただ、計画書の『今後の見通し』には
新会社の平成31年3月期の業績については、平成30年5月14日に開示いたしました業績予想に織り込み済みとなっております。なお、平成31年3月期は、サイトの知名度を上げるための広告宣伝費等の初期費用が必要なため、黒字化は平成32年3月期以降を想定しております。
とあります。
ブランド品のCtoC自体が、今の段階ではあまりキャッチーなジャンルではないため、瞬発的に結果が出ることはないと私は考えています。
メルカリ規模の広告費投入はあまりに危険と考えますが、ターゲット層の規模に合わせた、中規模の広告宣伝費は継続的に必要になるでしょう。
そして、メルカリの普及により消費者が「リセールバリューの高い商品(中古品で価格が落ちにくい商品」を所有したいと考えるようになってきています。
リセールバリューの高い商品の代表がブランド品ですから、そこに特化したサービスが構築できればゆくゆくは大きな成果がついてくるのではないでしょうか?
ECプラットフォーム事業に関して
『中古ブランド品販売サイトを構築し、他企業も適切な商品区分を自動入力で商品を登録できるようにする。登録情報をキュレーションし、消費者個々人の好みに合った商品を提案する』
(大黒屋HD IT新会社事業計画より)
つまりは中古ブランド業界の「Amazon(アマゾン)」になりたいということですね。
アパレル関連ではZOZOTOWN(ゾゾタウン)の中古部門「ZOZOUSED(ゾゾユーズド)」がプラットフォーマー化しそうな雰囲気です。
中古ブランド業界ではまだまだはっきりとしたプラットフォーマーは存在していないので、大黒屋HDはここを獲りたいところですね。
実際にプラットフォーマーになるためには、Amazon(アマゾン)と同様に、商品ページのSEO(検索エンジン最適化)で圧倒的な強さを見せることと、高い精度で「商品を画像で検索できること」が必要にります。
これを実現できるかどうかが新会社「ベータデジタル」の大きなミッションとなるでしょう。
商品の画像検索(ユーザーの持つ画像で適合する商品を表示すること)が高い精度で可能になれば、持っているブランド品を簡単に出品することができます。
ブランド品・アパレル品はほとんどのものが型番など、その商品を特定できる情報が商品自体には記載されていません。
この不便さを大黒屋HDが持つデータベースで乗り越えられれば、中古ブランド品のネット販売でのプラットフォーマーになれるチャンスはあるかもしれません。
ただ、どれだけ良いコンテンツができあがったとしても、そこにユーザーを集められなければ意味がありません。
現在、大黒屋HDはそれほど会員を持っていません。
メルカリは1億ダウンロードを達成するまでに、かなりのリソースを注いできました。「失敗したら倒産」というほどに。
大黒屋HDがどのレベルのプラットフォーマーになることを目標としているか、まだ明確ではないですが、覚悟が試されるタイミングが必ずくると思います。
AI真贋鑑定に関して
「真贋鑑定(本物か偽物かの見極め)」は、中古ブランド品について回る難問であり、他業者から見れば参入障壁です。
ユーザーは偽物を掴まされたくないので、今のところCtoCに出回っているブランド品はあまり高値で取引されていません。
正確には、業者が販売する場合に真贋鑑定の付加価値がついているというところでしょうか。
実際、メルカリやヤフオクで一般ユーザーが本物のブランド品を出品した場合、それがギャランティーや購入証明書などがない品物であれば、他の一般ユーザーが高値でそれを購入するにはかなりの勇気が必要です。
「本物か偽物か」を見極めるためには、多数の本物に実際に見て触れてきた経験が必要です。
ですから、メルカリやヤフオクでの一般ユーザーの出品物は、中古ブランド品業者の仕入れに使われているケースが非常に多いです。
話を「AI鑑定」に戻しますが、これまでも色々な会社がブランド品鑑定の自動化にチャレンジしてきました。
最近では、当サイトでも取り上げました米国発の鑑定システム「エントルピー」。
既に国内でも取り入れている業者があります。
コメ兵でも2020年をめどにAI鑑定を導入することを発表しています。
(日経新聞2018年5月8日 電子版より)
AIで真贋鑑定を行う目的のひとつに、「誰でもブランド品買取ができるようにする」ということがあります。
つまりはブランド品査定に対する専門性を減らしたいということです。
ブランド品買取の現場では、「真贋の見極め」「品物の特定」「相場の確認」の3つに時間を要しますが、「真贋の見極め」は査定員の経験やセンスに由来する部分が非常に大きいのです。
大黒屋HDでは、この「真贋の見極め」の部分をショートカットすることで、店舗を世界展開したい思いがあるようです。
もし仮に、AIで簡単にブランド品の真贋鑑定ができるようになった場合、その技術はやがて一般ユーザーにも無料で使えるようになるでしょう。
そうなると、ユーザーはリセールバリューの高い本物のブランド品を安心して所有できるので、中古ブランド品市場にとっても非常に好影響を与えそうですね。
ただ、AI鑑定の技術が各業者内でのみ使用する、もしくは有料での使用のみという状況が続く場合は、たとえAI鑑定の技術が向上したとしても、ユーザーにとっては大して影響がないかもしれません。
なぜなら、その鑑定の精度は一般ユーザーの使用に耐えられるものでなければ意味がないからです。
買い手と売り手が双方向で鑑定できるシステムこそ、中古ブランド品のプラットフォーマーに求められているのではないでしょうか。
もちろん、そのシステムが完成すれば、そのアプリのダウンロード数はブランド品を持つユーザーの数まで激増する可能性を秘めているのです。
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大黒屋HDが「中国・陸秦科技と業務提携」をして何が起こるか
大黒屋HDは2018年7月2日に「中国新規金融事業の立上げ」に関する資料を発表しました。
(http://tyn-imarket.com/pdf/2018/7/2/140120180702475770.pdf)
ここでは、その内容を噛み砕いて検証していきたいと思います。
「陸秦科技」ってどんな会社?
大黒屋HDが業務提携を発表した陸秦科技とは一体どんな会社なのでしょうか?
この資料の後半に載っているのですが、陸秦科技は朵金(ドゥーチン)というローンアプリを運営しているネット金融業者です。
朵金は商品購入時に、アプリを通してローンを組み、購入店舗への支払いは朵金を介して行われるという仕組みを提供しています。
これは日本には馴染みがない仕組みです。
なぜなら、日本ではクレジットカードが普及しており、クレジット会社が予め信用枠を各個人に設定し、その枠内の金額で消費者が購入行動を行うからです。
対して中国では銀行口座を持つ割合が少なく、クレジットカードも普及していないため、ローンを組んで品物を買うという習慣がありませんでした。
アリペイ(支付宝)やWeChat Pay(微信支付)などの中国で普及している電子決済サービスは、キャッシュレスではありますがローン機能がありません。
ここに目をつけたチェコの大手金融グループ「PPF」が、中国で消費者向け金融会社「ホームクレジット」の中国法人「捷信消費金融」を2008年に設立したのを皮切りに、この市場は一気に拡大していきました。
この成長の一端を担っているのがローンアプリであり、朵金(ドゥーチン)はその中では新興の業者という位置づけです。
大黒屋HDの中国戦略
大黒屋HDは2016年に中国最大の金融グループCITICのCXB社と提携しています。
そしてCITICとの合弁会社「信黒屋」は、日本の「大黒屋モデル」を中国で10店舗展開し、さらに拡大する予定のようです。
今後、大黒屋HDが中国でやろうとしていること
この計画書を読むと、大黒屋HDは中国で消費者金融事業を行い、それを拡大させる方針のようです。
『大黑屋朵金科技(北京) 有限公司』、略してDDJTでは、エンドユーザーへの信用調査や融資を行うとのこと。
質業よりもさらに踏み込んだ消費者金融業界への進出ですが、大黒屋HDとは他業界への進出を臆さない、いや、それこそが特徴の会社なのです。
大黒屋HDのM&Aの歴史を遡ると非常に面白いので、興味がある方はこちらをご参照ください。
とにもかくにも、大黒屋自体が旧森電気の業務拡大の中で得たものですから、今回の中国戦略も代表取締役である小川浩平社長からしたら必然の展開なのかもしれません。
【まとめ】大黒屋HD
この度立て続けに発表された大黒屋HDの計画書をまとめて読み解き、一言で表すとこうなります。
「大黒屋HDはITを駆使して中古ブランド品世界マーケットを獲り、かつ消費者金融市場にもチャレンジします」
ということです。
日本国内の業者では消費者金融の中国進出はプロミスが先駆けていますが、大黒屋HDはどのような展開をみせていくのでしょうか。
一見すると現場主義の強そうな質屋の大黒屋ですが、自社ITの進化により世界レベルの大躍進が期待されますね。
ただ、当サイトでの黄色の大黒屋の評価は3.0 と、あまり芳しくありません。
今回の新しい取り組みと並行して、基礎である国内の大黒屋店舗の内部態勢の強化も行ったほうが良いのではないかというのが私の見解です。
とにもかくにも、これからの大黒屋HDから目が離せません。
また決算短信や計画書などが出ましたら、細かく分析していきたいと思います。